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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)981号 判決 1960年4月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹下伝吉の上告理由第一点(五の点を除く)について。

所論は原審が、本件登記の現状が実質上の権利者と一致する場合云々と判示したことは法令の解釈を誤まり、理由不備、理由そごの違法があるというのである。

しかし、二重売買の場合において、第一の買主と第二の買主とは実質上いずれも所有者であつて、売主に対してはその所有権を主張し得るけれども、本件のように第二の買主たる被上告人田島新一が所有権移転登記をした以上、同被上告人は何人にも対抗しうべき所有権者となると解するを相当とし、右登記がいわゆる中間省略登記であると否とによつて、結論を異にすべきものではない。原審の判示は右と同一趣旨に出ずるものであつて、所論の違法は認められない。

同第一点五について。

所論は本件登記の現状が実質上の権利者と一致していないものであることを前提として原判決の違法をいうものである。

しかし本件登記の現状が実質上の権利者と一致している旨の原判示の正当であることは前記のとおりであり、論旨は原判示に副わない主張であつて、採るを得ない。

同第二点、第三点について。

原審は、本件登記につきいわゆる中間者である上告人の本件家屋の譲渡前後の事情、経過を詳述し、上告人は訴外組合より本件家屋を未登記のまま承継取得して自ら所有する期間これを登記しようとしたことなく、登記方を他人に依頼することもなく、未登記のまま何ら不満を感ぜず経過し、これを訴外川村悦雄に譲渡するに当つても、単に所有権を与えてその対価を収得することをもつて満足し、不動産を何人の名をもつて保有登記をなすや等既登記不動産とする点に関しては毫も関心なく、話題となすこともなかつたこと及び上告人は自己名義を登記に登載することを要するがごとき利益もまた何らなかつたことを認めるに十分であつた旨を認定し、更に上告人の本訴を提起した動機についても、何ら自己自身の利益を守る目的に非らずして、ただ訴外川村悦雄が二重譲渡したことを聞知し、その譲受人の一人である訴外櫛田正清をもつて正当の権利者と解し、これに責任ありと感じて同訴外人名義の登記を実現するため被上告人名義の登記を抹消しようとするにあることは、上告人本人の供述により明らかである旨を認定している。そして右原審の認定は、挙示の証拠に照らしこれを是認することができる。かかる事実関係の下においては、原審が、被上告人と櫛田といずれが法律上の保護に値するかどうかは同人らの訴訟の結果によるべきであり、上告人には本件登記の抹消を訴求するについての法律上の利益を認めがたく、本訴請求は失当であると判示したことは正当である。所論は、原審の右判断を争い、または右原審の認定に副わない事実関係を前提として原判決の違法をいうものであつて、採るを得ない。

同第四点について。

所論は判例違反をいうが、原審は、その認定のごとき事実関係の下において、中間省略登記につき上告人の同意がなかつたからといつて、上告人がこれを理由として本件登記の抹消を訴求するについての法律上の利益を認めがたく、本訴請求は失当である旨を判示したに止まり、中間省略登記の効力、要件等につき所論のように、引用の判例と異なる判断を示したものとは認められない。所論は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 高木常七)

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